演奏上達のために最初にするべきことは、練習より、楽器自体を弾きやすくて、よく鳴る状態にメンテナンスすることだ。
と思い至り、声を鳴らす方法ではなく、声が鳴る「体」を作る事にシフトチェンジした鳩山メソッド。
体が整ってくると、確かに声も変わってきた。
声が変わるというか、声の響かせ方が、簡単にわかるようになってきた。
「いい楽器で練習すると上達も早い」を、まさに身をもって実感できる。
あごが引けるようになったら声の出し方がガラッと変わった。
下の歯と唇の間に響きを感じられるように、常にあごの位置を調整しながら声を出す。
声の高さを、喉に力を入れるかわりに、あごの引き具合で調整するような感覚。
これだとある程度まで、高い声を出す際、喉に力を入れる必要がない。力みがないせいか、声の出し終わりがスッときれいに切れて、変な尻尾がつかない。
あごが引けて、首の骨が伸びるようになってきたら、口の、奥の方を開けるようになってきた。
ある程度以上の、地声より上の音域も、とりあえずあくびみたいな感じのやわらかい声で出しておいて、それを、今までのように喉に力を入れるかわりに、口の奥を、上と下に目一杯引っ張り広げて響かす。
すると、地声より上の声域を、裏声じゃない声で、喉を痛める事なく、響かせることができる。
完全に今までとは別の声の出し方だ。
では「あごを引くと響く声を出せる」というハウツーは成立するのか?この答えが難しい。
今の自分にとってはイエスだが、以前の自分には、そもそもあごをひくことができなかった。
以前の自分は慢性的に首が前に倒れていた。いわゆる猫背。
それが肩甲骨周りが自由になるにつれて、頭が胴体の上に乗っかるようになってきた。
すると、はじめて「あごを引く」感覚がわかるようになってきた。
ちなみに、あごを引くと連動して首筋がピンと伸びる。首筋がピンと伸びると、自ずと胸が張る。
胸が張れるようになるうちに、解剖図で見るような背骨(胸椎)のカーブを、実感として感じられるようになってきた。
この、胸椎のカーブを感じられる状態に自分を置くと、心身共に元気が出てくる。
仕事の終盤、疲れている時など、特に実感できる。
子供の頃から言われ続けてきた「背筋をピンと伸ばせ」とは、この感覚のことを言っていたのかと、40前になって、はじめて理解できた。
結局、発声法のハウツーを使える人というのは、そもそも体が整っている、いい状態の楽器を最初から持っている人なんだと思う。
自分のように、他の人が当たり前にできるようなことができない自覚のある人間は、ハウツー以前の、楽器のメンテナンス、リペアからはじめる必要がある。